企業はAIを活かせるか? 
ディープラーニング活用の展望を探る

「第3回AI・人工知能EXPO」で講演する松尾豊氏。 画像提供:リード エグジビション ジャパン(株)

AI(人工知能)の発展に大きく寄与しているのが、ディープラーニング(深層学習)という技術だ。ディープラーニングとは、人間の脳と同じように、機械が知識や経験を自動的に学習するための技術。これが進化すれば、「人と同じ役割を果たすAI」を実現できる。

そんなディープラーニングの最前線を報告する講演が「第3回AI・人工知能EXPO」で開催された。

講師は、ディープラーニングの第一人者・松尾豊氏(東京大学大学院工学系研究科特任准教授)。6,000人もの聴衆を集めた講演では、企業におけるAIの活用や今後の展望についても語ってくれた。


速に進化するディープラーニングに、日本企業の対応は?

「ディープラーニングが注目を集め始めたのが2012年ごろですが、当時の技術はすでに『古典』の領域です」と、松尾氏はディープラーニングの進歩の速さについて語り始めた。

2012年といえば、ディープラーニングの性能の高さを世界的に証明した「AlexNet(アレックスネット)」が披露された年だ。その後、DQN(Deep Q Network)、アダム、カプセルネットワーク、BERT(バート)などの最新技術が月単位で登場しており、今さらアレックスネットを研究しても意味がないと松尾氏は伝えている。

これだけスピードの速い技術に、企業の対応はどうなのか。松尾氏は、日本企業はディープラーニングをはじめAI・人工知能についての取り組みに消極的だと警笛を鳴らす。

「1990年代にインターネットが登場した際にも、多くの日本企業は懐疑的な目で見ていました。それが今やネットは仕事や暮らしに不可欠な時代。この動きに早くから着目したアメリカや中国の企業は大きく成長しましたが、日本企業は積極的にやらなかったから凋落したのではないか」と松尾氏は分析する。

ただ、日本企業の復権に大きなチャンスをもたらすのがディープラーニングではないかと期待を込める。

「ディープラーニングは、ビジネスとして確立され始めたばかりの技術。今後10年で1,300兆円規模の経済効果を生み出すと予測されています。このチャンスに乗り遅れないことが日本企業の復活にかかっているでしょう」(松尾氏)


業がAIを取り入れていくのに重要なこととは?

画像提供:リード エグジビション ジャパン(株)

https://www.ai-expo.jp/content/sitebuilder/rxjp/ai-expo/live/ja-jp/about/previous/sokuho2019.html

では、企業がAIを活用したプロジェクトを立ち上げていくには何が重要なのか――。松尾氏は、GoogleでAIの導入に関わったアンドリュー・ウ氏の著書「AIトランスフォーメーションプレイブック」を引用し、その道筋を説明した。具体的には以下の5点に集約される。

1.パイロット・プロジェクト(試験的な事業企画)から導入を始める

2.AI専門の部隊を設立し各事業部と連携しながら検討する

3.現場のエンジニアだけでなく経営陣にもAIの理解力を持たせる

4.1~3までをしっかり醸成させたうえで戦略づくりを始める

5.社内全体に浸透したら、取引先や顧客、投資家など外部のステークホルダにもAIの必要性を説いていく

この一連のフローでもっとも重要なのが、3の「経営陣にもAIの理解力を持たせる」ことだと松尾氏は述べる。

「日本企業の上層部の人たちは、インターネットによる成功体験や実感が少ないです。新しいことにチャレンジするには、まず上層部をしっかり納得させ、勉強してもらうことが重要なポイントでしょう」(松尾氏)


来のAIプロジェクトを支えるのは「高専生」

上層部だけでなく、AIの知識に長けた人材を育成することも重要だ。日本のAI技術は、アメリカや中国と比べて2~3年は遅れていると指摘する松尾氏は「アメリカや中国で技術を習得させ、日本で実行できるような人材を育てることも大切だ」と語る。そして、その人材として適任なのが、高等専門学校出身の学生(高専生)だと考えているようだ。

「ディープラーニングは、プログラムだけでなくハードウエアに関する知識も必要です。いくら優秀なプログラマーでも、ハードの知識がなければ進歩はしない。それならば、ハードウエアに関する基礎知識を学んだ高専生にディープラーニングを教えれば、優秀な人材を生み出せるのではないでしょうか」(松尾氏)

松尾氏はすでに、高等専門学校の学生を対象にAIによる新しい事業創出を目的としたコンテスト「高専ディーコン」を開催している。「高専生の斬新なアイデアに企業が出資するベンチャーキャピタルのような場にしたい」と松尾氏は意気込む。


AIジネスは誰にでもチャンスがあ 

最後に松尾氏は「社会の変化をチャンスととらえ、多くの企業がAIビジネスに取り組んでいってほしい」と講演を締めくくった。

ディープラーニングを活用したビジネスは、まだまだ試行錯誤の段階だ。つまり、ベンチャー系の企業にとって10年、20年後には世界と戦える大企業に化けるチャンスでもある。言うなれば、知識さえあれば誰にでもチャンスのある事業領域といえよう。

知識については、ディープラーニングにも「G検定」「E資格」という制度が登場している。G検定はこれまで1万人近い人が受験し、6,000人以上が取得。70代の方も合格しているようだ。E資格は講座受講が必要で479名が合格している(2019年3月現在)。

AIで新しいビジネスを始めたいと検討されている方は、こうした資格を取得することから始めてみるのも一手であろう。

 

>>(前号)AIが働き方改革を加速する―「第3回AI・人工知能EXPO」潜入レポート

 

大五康彦(だいご やすひこ)
こんにちは、会報誌『ADJUSTER』では「技術検証」シリーズや会員様取材などを担当していました。テレビ番組の制作会社でリサーチおよび構成、Webライティングを経てフリーランスのライターとして独立。IT系や不動産、金融系の取材執筆でWeb媒体を中心に活動しています。そのほか企業・団体のWebサイトにおける企画立案や構成などWebディレクター兼ライターとして500社以上のホームページ制作にも携わっています。よろしくお願いします。

 

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